前立腺がんの治療はどのようなことをするのですか?
大きく分けて、①PSA監視療法、②手術療法、③放射線治療、④薬物療法(内分泌療法)があります。リスク分類と、それぞれの患者さんの年齢や健康状態を踏まえて、治療法が担当医から提示されます。
前立腺がんの治療法は複数ありますので、医療者、患者さん、ご家族が話し合って、十分納得された上で決めることが大切です。
PSA監視療法とはどのようなものですか?
PSA監視療法は、悪性度が低い早期のがんの方が対象です。定期的なPSA測定、前立腺生検でがんを監視し(おおむね1~2年後に再生検)、PSAが上昇したり、がんの悪性度が高くなったりした場合は、別の治療を検討します。治療を積極的に行うわけではありませんが、予後はおおむね治療をした人と変わらないとされています。
手術療法とはどのようなものですか?
手術療法は、前立腺に限局したがんで選択されます。前立腺と精嚢(せいのう)を摘出します。現在、開腹前立腺全摘除術、腹腔鏡下前立腺全摘除術、ロボット支援前立腺全摘除術が保険適応となっています。2010年ころまでは、開腹前立腺全摘除術が主に行われ、良好な治療成績を示していましたが、骨盤内の狭い空間での手術であったため、出血量が多いことが課題でした。その後、ダビンチというロボットを用いた「ロボット支援手術」も保険適応となり、開腹手術と比較して出血が少なく、合併症も軽微で、患者さんの体への負担が非常に少なくなっています。手術の翌日には、歩行、飲水、(食事)が可能で、入院期間は7-10日程度です。
手術支援ロボット(ダヴィンチ)
手術の影響に関してはこちらをご覧ください。
放射線療法とはどのようなものですか?
放射線療法も、前立腺に限局したがんで選択されます。放射線の当て方には、体外から照射する外照射法(近年、治療部位に集中して照射できるIMRT療法が可能になっています)や、放射線を発する数mmの針状のもの(線源)を前立腺内に挿入する小線源療法(ブラキ療法)があります。外照射では約2か月の治療期間、ブラキ療法では5日程度の入院が必要です。
ブラキ療法で使う前立腺に埋め込むシード(放射線源)と埋め込み後の画像
手術と放射線治療の治療効果はほぼ同等といわれています。治療方法、期間、合併症などが大きくちがうので、それぞれのメリット・デメリットを考慮し、よく相談をして決めましょう。
内分泌療法とはどのようなものですか?
内分泌療法は、前立腺がんの増殖に関与している男性ホルモンの働きを抑えることで、がんの勢いを弱める治療です。主に、転移があるなど、進行している前立腺がんの患者さんに行われます。根治治療ではないため、経過で治療効果が認められなくなることがあります。そのようながんは「去勢抵抗性前立腺がん」とよばれ、抗がん剤や新しいホルモン治療薬が使用されます。
去勢抵抗性前立腺がんの治療はどのようなものがありますか?
抗がん剤治療や新しいホルモン治療薬が使用されます。近年、様々な新しい薬剤が開発され、治験(新薬の効果をみる臨床試験)も行われている場合もありますので、自分にあった薬剤がないかどうか、一度主治医の先生に相談してみるのもよいでしょう。
ステージ別の治療の組み合わせはこちらをご覧ください。
※1:愛媛県ではステージⅠ・グリソンスコア6以下の方のうち約1/3の患者さんがまずPSA監視療法(経過観察)を選択されます。
※2:ステージⅠ・Ⅱでは手術療法が最も多く選択されています。
※3:他のがんと違い、進行したがんの場合(ステージⅢ・Ⅳ) でも最初の治療として内分泌療法が行われることが多いです。
骨に転移があると言われました。どんな治療法がありますか?
骨に転移がある場合、ホルモン療法などがんに対する治療が検討されます。活動できるよう骨折の予防のために行われる薬物療法が有り、かなりの効果があるとされています。また、転移した部分に痛みがある場合にその部位に放射線をあてることがあります。
患者が超高齢であったり、合併症が多い場合の治療はどのようにしていますか?
血液検査で簡単にがんの有無が推定されるため、特に症状がないご高齢の方に思いがけずがんが見つかることがあります。
最近は、年齢のみで治療方針を決めず、日常生活の状態、合併症の数や種類、内服薬の内容、認知機能を評価したうえで、治療法を相談して決めています。患者さんの人生観や、ご家族のサポートなども重要な要素です。個々の患者さんで異なりますので、十分な相談の上、治療を決めてください。
前立腺全摘除術術後の尿失禁が心配です。どのような経過になりますか?
男性の排尿を止める筋肉は2か所あります(内尿道括約筋、外尿道括約筋)。手術では、内尿道括約筋は前立腺と一緒に切除されますので、外尿道括約筋のみとなります。外尿道括約筋も前立腺に近い位置にあるので、手術の影響を受けて、筋力が弱くなります。この弱くなる程度は個人差がありますが、骨盤底筋体操と呼ばれるトレーニングをすることで、機能が回復してきます。3か月後で50-70%、1年で90%近くの患者さんで機能が回復するといわれていますが、残念ながら失禁が続いてしまう患者さんもいらっしゃいます。このような場合、人工尿道括約筋留置術を検討する場合があります。また、骨盤底筋体操の方法を見直し、数年間続いていた失禁が改善した患者さんもいらっしゃいます。
人工尿道括約筋留置術や骨盤底筋体操の見直しなどを行っている病院については、各病院の取り組みをご覧ください。