リンパ浮腫とは、手術時のリンパ節切除(リンパ節郭清)や放射線治療の後に、リンパ液の流れが滞り、その部分より末梢の手足がむくんだ状態になることです。
リンパ浮腫は発症すると治りづらく、生活への影響も大きいので、予防や早期治療が非常に大切です。
リンパ浮腫はなぜおきる?
体の成分の1/6程度(個人差があります)を占めるリンパ液(組織液・間質液とも呼ばれる)には、体に栄養と水分を供給し、老廃物などを輸送する重要な役割があります。血液由来ですが、静脈ではなくリンパ管と呼ばれる別の種類の管に入り、静脈よりはゆっくり流れます。リンパ管はリンパ節にやがて流れ込みそこを経て静脈に帰ります。
リンパ節は体においてリンパ液にまじって流れてきたもの、例えば細菌やウイルスに対する“交番”の役割を果たします。転移する腫瘍細胞も多くの場合まずリンパ節に流れてゆきます。治療のためにリンパ節を切除すると、その際にリンパ管も切れ、リンパの流れが障害されます。そのため、流れが悪くなったリンパ液が溜まり、リンパ浮腫が起こります。


リンパ浮腫に注意が必要な治療
腕や足の付け根(それぞれ、腋窩、鼠径部と呼ばれる)のリンパ節を切除したり、放射線を当てたりする治療がリンパ浮腫のきっかけになります。具体的には腋窩リンパ節の廓清を伴う乳腺、鼠径部や骨盤のリンパ節を廓清する婦人科や泌尿器の臓器の治療を行ったときにはリンパ浮腫の発生に特に注意する必要があります。
リンパ浮腫が起こると、重だるさを感じることがあります。重症化するとむくんだ部位の関節可動域に制限が出て、日常生活に支障が生じてきます。リンパ浮腫に関しては先ず予防を心がけましょう。リンパ節切除術や放射線照射を受ける方は、早期から予防に取り組めるよう、担当の医療スタッフとよく相談しておきましょう。
インターネット上にマッサージ法などの解説がありますが、確かなもの、不確かなもの、個人の状態に合うもの、合わないものがあります。自身で行う前にまずは医療者に相談しましょう。
リンパ浮腫の予防
予防するため日常で気をつけること
- スキンケアはとても大切です。乾燥、外傷、虫刺されなどによる細菌感染はリンパ浮腫を起こすきっかけとなるため、保湿剤などで皮膚を乾燥から守り、皮膚の清潔を保ちましょう。外傷や虫刺されにも気をつけましょう。
- 同時に肥満にも注意が必要です。脂肪が増えるとリンパ液がたまりやすくなる可能性があるため、適度な運動を行うなどして体重管理をしましょう。また締め付けの強い服装や靴を避けるようにしましょう。
- 日ごろからむくみが出ていないかを確認することも大切です。手術や放射線治療をした場所の近くに服のゴムやアクセサリーの後が残る、皮膚を押すとへこんで戻りにくい、重だるい感じがするなどの症状がある場合は、早めにかかりつけ医に相談しましょう。
もしリンパ浮腫かもしれないと思ったときは、まずは、ご自身ががん治療を受けた医療機関に相談してみましょう。リンパ浮腫の可能性を指摘された場合は、適切なセルフケアの方法や専門スタッフや医療的介入の必要性について、よく相談してみましょう。
リンパ浮腫を発症したら
弾性着衣や弾性包帯による圧迫療法、圧迫をしている状態での運動療法、手で行うリンパドレナージを組み合わせた複合的治療が有効です。
その他、医療的な方法として、リンパ管細静脈吻合術などの手術もあります。
しかし、手術を受けたとしても治療効果がずっと続くものではなく、再び症状が悪化するおそれがあります。かかりつけ医とよく相談し、必要に応じて診療を受けつつ、リンパ浮腫予防を継続していくことが重要です。
リンパ浮腫治療の体制について
リンパ浮腫についての専門的知識や技術をもつ医療スタッフが、医師の診断、指示に基づいて患者さんにあった方法を提示したり、施術したりします。こうした医療スタッフは国の既定に沿った研修を修了し、技能試験を受け認定されますが、認定団体は複数あり、それぞれの基準で独自に認定しており、認定資格の呼称もそれぞれの団体で異なります。
医療系の資格としては、
- リンパ浮腫保険診療医(全国で45人)/リンパ浮腫学会、
- リンパ浮腫保険診療士(全国で70人) /リンパ浮腫学会
- リンパ浮腫療法士(全国で1000人弱)」/リンパ浮腫治療学会(2022年現在)
などがありますが、他にも類似した名称の資格があります。医療系とは言えないものもあり、現状大変区別が難しくなっています。
専門的なリンパ浮腫のセラピストの養成課程は長期間におよぶこと、養成場所が限られるなどの理由から、残念ながら全国的に不足しているのが現状です。県内でリンパ管細静脈吻合術を行っている施設は1施設のみです。
愛媛県内の各施設のリンパ浮腫の治療体制は下記からご覧になれます。各施設で対応が異なりますのでご確認ください。
詳しい診療体制については、担当医にご相談ください。
各病院の取り組み
四国がんセンター
当院では、リンパ節郭清術後の患者さんに対して、術後早期から介入し、セルフケアの指導等を行っています。
また専門外来として「リンパ浮腫外来」があります。「リンパ浮腫外来」は、リンパ浮腫の診断、治療、指導などを行っています。手術としてはリンパ管細静脈吻合術を行っています。
リンパ浮腫外来で医師の指示を受けたセラピストによるリンパドレナージの施術やセルフリンパドレナージの指導、弾性着衣の選定、装着指導なども行っています。診察、施術ともに完全予約制としております。
リンパ浮腫ケアの専門的な研修を修了したスタッフが対応していますが、スタッフ養成には長期間かかることから、診療体制を拡充させることには限界があり、現在のところ、当院で行われたリンパ節郭清術後に生じたリンパ浮腫の方に受診を限らせていただいています。
愛媛大学医学部附属病院
当院では、リンパ節郭清術後の患者さんに対し、入院・外来でのリンパ浮腫予防についての指導を行っています。
また、保険診療でのリンパ浮腫外来を行っており、リンパ浮腫セラピスト・資格取得医師によるリンパ浮腫の診断・治療・指導を予約制で行っています。(現在のところいずれも当院でリンパ節郭清術を受けた方にのみ対応)
愛媛県立中央病院
当院でがん治療を行った患者さんを対象に、リンパ浮腫ケアの専門的な研修を修了した看護師が、0〜Ⅱ期の軽症患者に対して、日常生活の指導、リンパドレナージ施術、セルフリンパドレナージの指導、弾性包帯や弾性着衣の指導・選定などを各診療科の受診内で行っています。(令和6年4月から8月まで約90件)
現在のところリンパ浮腫研修を終えた医師がいないため、リンパ浮腫外来診療はできていません。リンパ節郭清術を受けた患者さんに対して術後早期からリンパ浮腫の予防や治療に取り組むことが非常に重要であると認識していますが、それに関わる人材が不足しており、当院で治療を行った患者さんに限らせていただいています。遅ればせながらリンパ浮腫外来を立ち上げることを検討しています。
松山赤十字病院
当院では、乳がん、婦人科がん、前立腺がん等のリンパ節郭清を伴う手術をうけられた患者さんに対して、リンパ浮腫の予防や早期発見のための指導を行っています。
また、現在、リンパ浮腫治療の体制を整備しており、乳がん術後の上肢リンパ浮腫が生じた患者さんを対象に、2024年度中に治療開始予定です。 ※下肢リンパ浮腫を生じた患者さんについては、他院の専門外来を紹介させていただいています。
済生会松山病院
当院では、自施設でリンパ節郭清術をうけたリンパ浮腫のリスクのある方、およびリンパ浮腫を認める入院中の患者さんに対し、看護師・リハビリテーションスタッフと共同でセルフケア指導をおこなっています。また、リハビリテーションスタッフ・リンパ浮腫セラピストによるマッサージ、自動運動指導、弾性包帯、物理療法を用いたリンパ浮腫コントロールや弾性着衣の選定・装着指導を行っています。退院後は、緩和ケア認定看護師・リンパ浮腫セラピストが介入し、継続して支援をおこなっています。
現状では、一般患者さんを対象としたリンパ浮腫外来開設にはいたっていません。
済生会今治病院
当院で手術を受け、主治医が必要と判断した患者様のリンパ浮腫に対応しています。
乳がんに関しては、院内教育を受け認定されたスタッフ(乳がん術後リンパ浮腫予防や早期発見、セルフケアについて院内教育を修了)が、手術を受けられる方に、術前もしくは術後より介入し、セルフケアおよび生活指導を行っています。その他、外来でのサポートをがん相談支援センターで対応しています。
それ以外のがん患者さんに対しては主治医の紹介でリンパ浮腫の指導やケアについては緩和ケア認定看護師が行っています。院内教育を受け認定されたスタッフが予防指導を行い、必要に応じて外来で相談を受けることが可能となっています。
専門医がいないためリンパ浮腫外来はありません。そのため、重症例や対応不可能な場合は専門性の高い病院へ紹介させていただいています。
住友別子病院
当院のリンパ浮腫診療は、入院、外来ともに対応しており、乳腺・内分泌外科と形成外科が主に担当しております。
リンパ浮腫専門外来は設けていませんが、日本看護協会日本乳がん認定看護師1名、リンパ浮腫複合的治療技術者の作業療法士1名が在籍しており、入院、外来合わせて年間20症例程対応しております。
当院での具体的な診療内容は、包帯による圧迫療法や弾性着衣の提案および選定、セルフケアに重点を置いたドレナージ方法指導、感染による症状悪化の予防を目的とした生活指導等、一人一人の生活背景に沿った治療方法が提案できるよう努めております。
また、リンパ郭清術後の患者さんに対して、術前から介入し、セルフケアの重要性について理解いただくよう取り組んでおります。
一方、当院で対応していないリンパ管細静脈吻合術、脂肪吸引、リンパ節移植等のリンパ浮腫治療につきましては、相談対応のうえ、必要によっては他の医療機関をご紹介させていただいております。
ケアを必要とされている患者さんに寄り添い、対応することを心掛けておりますので、何かございましたらお気軽にお問い合わせください。
四国中央病院
当院ではリンパ外来を開設し、診療は医師(リンパ浮腫保険診療医)、がん化学療法看護認定看護師、医療事務が担当しています。
リンパ外来では、主にがん術後の続発性リンパ浮腫の診断・治療や原発性リンパ浮腫の治療を行っています。他院でリンパ節郭清術をされた患者さんも受け入れています。当院婦人科、乳腺科、外科で手術を受けられる場合は、術前より介入しリンパ浮腫について説明し、セルフケアや日常生活指導をしています。
治療内容は複合的治療が主であり、リンパドレナージはリンパ浮腫療法士により施術しています。重症の方や手術を希望される方は他院へ紹介することもあります。
そのほか院内外から紹介いただく鬱滞性皮膚炎、廃用性浮腫をはじめ下肢浮腫でお困りの患者さんにも対応しております。
十全総合病院
当院では乳がん術後のリンパ浮腫に対して治療を行っています。弾性スリーブによる圧迫療法、セラピストによるリンパマッサージの実施やセルフマッサージ指導を行っています。
また、ピンクリボンアドバイザーが乳がんに関する幅広い相談をお受けし、適切な治療が受けられるような診療科へアプローチしています。
- リンパ浮腫指導管理料:4件
- リンパ浮腫治療開始 :195名
市立宇和島病院
当院では主に乳癌のリンパ節郭清術後の患者さまに対し、術後早期からのリンパ浮腫に対するセルフケア指導を行なっています。またそれ以外のがん種のリンパ浮腫で各科受診された患者さまに対しても、リンパドレナージの施術や弾性着衣の選定、日常生活指導を行なっています。
リンパ浮腫外来はありませんが、各科医師の指示のもと、リンパ浮腫研修を受講した理学療法士が対応をしております。初回に関しては日時指定はありませんが、次回からは予約での診療をお願いしています。
治療費は保険診療での対応となっています。
令和5年度の症例数は入院23例、外来15例となっています。
市立八幡浜総合病院
当院では、リンパ浮腫に対する専門医はいません。必要な場合には対応できる他施設へ紹介を行っています。正確な情報提供を行うことに努め、いつでも相談できる病院でありたいと思います。
がん治療中や、治療後でもリンパ浮腫に関してご心配な事がありましたら、担当医または看護師にお尋ね下さい。
旭川荘南愛媛病院南愛媛療育センター
当院ではがんの治療は行っていませんが、リンパ浮腫に対応している施設が少なかったため、南予地域での何らかのサポートができればとの思いで、2010年より保存的治療を提供してきました。外科的治療は行っていません。
患者様の疑問や不安にお答えするとともに、セルフドレナージ指導、弾性着衣の選定、装着指導、弾性包帯の巻き方指導、各種装具のご紹介など、セルフケアの確立を目標としています。
対応しているのが医師一人(整形外科)なので、外来でのリンパドレナージは行っていません。(入院患者のみ可能な場合あり) 入院、外来ともに保険診療の範囲での治療となります。
他施設からの紹介、紹介状なしの自主来院の方にもできるだけ対処させていただいております。